立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第2回
シネコンは映画をどうキュレーションする? 『リリーのすべて』と合わせて上映するなら……
東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案したりするこのコラム、第2回は「シネコンのキュレーション」について。
キュレーションという言葉は、映画業界周辺で使われることはあまりなく、主に博物館や美術館の特別展示を企画することなどを指します。単純にある作家展やどこかの所蔵品というだけでなく、モチーフでまとめたり、作家を組み合わせたりすることで作品に新たな意味や解釈や理解もたらすことが出来たなら、企画者としては最高の気分です。
シネコンの場合、意図せず偶然に“それっぽいこと”が起こることもあります。例えば少し前立川シネマシティでは『黄金のアデーレ 名画の帰還』と『ミケランジェロ・プロジェクト』を同時に上映していました。
『黄金のアデーレ』はナチスに没収された叔母をモデルにしたクリムトの絵を取り戻そうとするおばあちゃんの物語です。『ミケランジェロ・プロジェクト』はナチスがユダヤ人から没収した膨大な美術品を奪還する連合軍特殊部隊の話です。併せて観ると、特殊部隊がナチスから奪い返した絵画が政府の手には戻ったものの、すべてが個人の元にまでは返らず、今もなお戦争の傷跡は残り続けていることがわかります。
『ミケランジェロ~』は一度公開が延期になったという経緯があり、まさにこの2本が同時に上映されたのは偶然です。シネコンでは常時たいてい20本以上の映画が上映されていますから、時にこういうことが起こるのです。
僕の映画人生で強烈な思い出として残っているのは、旧恵比寿ガーデンシネマさんで偶然(?)隣の劇場同士で上映していた実写版『ハイジ』とテリー・ギリアム監督の傑作『ローズ・イン・タイドランド』の組み合わせ。これ両方とも親を失った幼い少女の、それでも強く生きる姿を描いた作品なのですが…似た題材でここまで違うものなのかと(笑)。
かたや大自然が舞台、文科省推薦的優等生少女の物語で、かたや麻薬中毒の父母がオーバードーズで死んで、首だけのバービー人形でひとり遊ぶ妄想少女の不道徳な物語。この対比の激烈さ。面白いのは、この2本を併せて観たときに浮かぶ疑問、「だが、より“子どもらしい”のはハイジかローズか?(あるいは、より幸福なのは?)」。
その答えは各自ご覧になり考えていただくとして、とにかくここで申し上げたいのは、映画に限らずですが、ただその作品だけ観るよりも、料理にあわせたワインが共に輝くように、複数観ることによって引き出される面白さというものがあるということです。